【NHKスペシャル】病の起源 4 言語障害 〜文字が生んだ病〜

番組から得た着想:

文字を読み書きする能力は人間に特有の能力だと考えられている.ホモ・サピエンスの他に地球上で文字を扱える生物種はいないのだろうか.(ヒトが認識できていないだけではないだろうか.)この文字を扱う能力によって高度な文明を作るに至った.現代の社会活動においてもその役割は非常に大きいように思う.

  • 音声言語(言葉):1,900,000年前(190万年前)
  • 文字言語(文字):5,300年前

文字の発明が音声言語に大きく遅れたのは,文字が人間の生活に必ずしも必要ではなかったからだと考えられる.先進国を除くと今でも世界中に文盲の人が多くいる.古代社会の規模が複雑化するに従って,やりとりの記録を人間の記憶に頼るのでは不便になったため,文字に残す動きがあったと考えられる.もしくは,文字を使うことによって,不特定多数の人に対して情報を提示することができたからだろう.

番組の問い

  • 私たちはなぜ病気になるのか.
  • 私たちは病気から逃れられない運命なのだろうか.

番組内容

読字障害として有名な偉人(今回初めて聞いた障害)

絵やデザインに秀でた能力を持っているにもかかわらず,読み書きに障害を持つ人がいる.最近の研究により,読字障害に苦しむ人が世界中に多く存在することが明らかになってきた.なぜこのような病が生まれたのだろうか.世に名を残した以下のような著名な人も読字障害だったと考えられている.

  • パブロ・ピカソ
  • ヘンリーフォード
  • ウォルト・ディズニー
  • グラハム・ベル(電話を普及させた人物)

読字障害者の例

ジャック・ホーナー教授(恐竜研究の第一人者としてアメリカ・モンタナ州立大学・恐竜博物館(世界最大の恐竜博物館にて研究を行う)

ジャック・ホーナー教授:恐竜の研究に関する研究論文を100編以上書き、恐竜研究を飛躍的に推し進めたホーナー教授は、文字の読み書きが苦手だと言う.大学院生が書いた論文を容易に読むことができない.彼にとって文字は、訳のわからないものに見えるということだ.読字障害の方の読む能力は一般的な小学三年生程度だと言われている.彼にとって文章は,絵のようにしか見えないらしい.

東堂さん(イギリスの建築の大学を卒業し建築デザインの仕事に従事)

16歳の時にロンドンに留学し,建築デザイナーを目指し勉強してきた.ユニークな発想をもとに,建物をデザインし優秀な成績を修めて大学を卒業した.記述することなく二重螺旋構造を取り入れた建築物を構想している.留学先で読字障害だと診断された.学習障害センター(大阪大学),東堂さんに読み書きのテストを行われた.彼は,文章を一字一句理解しようとすると絶望的,それをするのに全体力を使ってしまうと述べた.漢字を書くテストを行った.漢字を書いてもらうテストをした時,まずイメージ図を書いて,漢字を思い出そうとしていた.(鳥の「巣」の話)一般的な能力に問題はなく,特に図形を扱う力というのは,一藩的な人と比較してずば抜けた能力を持っている.しかし,文字の読み書きだけが苦手なのだ.

最新の研究によって解明されてきたこと

京都大学(福山秀直 教授)

読字障害を患う人は、アメリカやイギリスでは10人に1人,日本では20人に1人であると考えられている.最近の研究により、読字障害の人は,文字を読む時の脳の情報処理に問題があることがわかってきた.MRIを使って、言葉を聞いた時・読んだ時の脳の働きを調査することにより,一般の人と脳の一部の働きが異なることが明らかにされた. 耳から入った音(言語)は,右脳のウェルニッケ野・ブローカ野に入り,言葉が理解される.これらは言語野と言われ言語処理を行なっている.また,文字の書かれた画像を見て声を出さずに読むと,視覚野に入り,39野・40野に入り音の情報に変換される.そして初めてプローカ野に入り,初めて言葉が理解される.この場合,言語として理解できるように脳内で変換されなければならない.読字障害の人はどこに問題があるのだろうか.

ジョージタウン大学(アメリカ・ワシントン州)

読字障害の人の脳の39野・40野の領域が十分に活動していないことが明らかになった.文字をうまく音の情報変換することができていないのだ.文字の変換が断たれ,その結果理解することができない.では,読字障害の人はどのように文章を読んでいるのだろうか.視線追跡装置を用いてどのように読んでいるのかを研究した.単語をどのように音にしたら良いのかわからない.読むために必要な音への変換が困難なのだ.言葉で話せば理解することができる利口な子供であっても読字障害であるケースがある.

読字障害の起源

人類の進化と関係がある.子供は日常生活の中で言葉を話せるようになる.それは,人間が生まれながらにして言葉を話す能力を持っているからと考えられている.どんな難しい文法でも母国語であれば自由に話せるようになる.子供の頃からそういう能力を持っているからだと考えられる.

ブローカ野に関して

なぜ,人は言葉を理解し,喋ることができるのだろうか.その答えは人類の歴史にある.ディーン・フォーク教授は,ブローカ野がいつ備わったかの研究を行なっている.ブローカ野は,人類の共通の祖先であるチンパンジーの脳には確認できない.アフリカで見つかった190万年前の脳の標本に人類で最も古いプローカ野を見つけた.注意深くみるとブローカ野の特徴を思わせる部分がある.この事実から言葉が芽生えたのはかなり昔のことだと考えている.ホモ・エレクレス(190万年前):現在のように複雑な言葉ではないが,ブローカ野が発達しかけていた.

39野・40野に関して

文字を音に変換する39野・40野はどのように進化してきたのだろうか.発見されている中で世界最古の250万年前の石器からそれに対して1つの考察が得られている.石を割っただけの単純な石器.現在わかっている人類で最初に石器を使ったのはアウストラロピテクス・ガルヒ(250万年前)である.実は石器の使用には,39野・40野が深く関わっている.石器の使用には,切る位置を見定め,正確に石器を打ち付けなければならない.この複雑な作業こそ,39野・40野の発達が欠かせない.39野・40野は視覚と聴覚と感覚情報を統合する領域である.様々なルートから入ってくる情報を処理する高度な情報処理センターとしている.体性感覚など非常に高度な中枢となる領域である.情報を統合する領域である.

人類はいつ文字を使い始めたのだろう

人類はいつ文字を使い始めたのだろうか.世界最古の文字は,ウルク遺跡(メソポタミア文明が始まった場所)で発見された.動物や食べ物などが記された粘土板に書かれた文字は,当時の取引に使われていたと考えられている.丸みをもった文字は次第に角張った文字に変化していく.BC3000年代から時代別に発見される文字から,徐々に抽象化・簡略化されていったことが読み取れる.その方が簡単に描けるからだ.人類は,文字によって様々な知識を蓄積できるようになった.のちに,文字は文化や芸術・科学の分野で人間の可能性を大きく切り開いたのだ.

読字障害に直面

ところが,文字が広く使われるようになった産業革命以降,世界中の子供たちは文字と格闘しなければならなくなった.フランスの脳科学者スタニスラス・デエヌ博士は文字を読む新たな負荷(役割)を脳に負わせたことが読字障害の起源だと考えている. 文字は数千年前に人が発明した発明品に過ぎず,読むための脳の領域は太古から他の活動に使っていた領域に過ぎない.文字の歴史が浅過ぎて脳がついていけないということだった.ホモ・サピエンスが誕生は20万年前であり,文字の発明は5300年前,読字障害の発見1896年である.脳の発達が文字に追いつかないということを容易に理解することができる.

現在・読字障害の人のために

アメリカ,ジェーミシー・スクール:読み書きが苦手な子供のため(読字障害の子供のため)の学校がある.文字は道具であり,訓練するによって獲得できるものという認識のもと教育が行われている.文字を視覚と運動感覚を使用して覚えていくような授業がある.全ての感覚器官を総動員して脳の中のつながりを強めていく.最近の取り組みで,小さいうちに読字障害を見つけ,訓練すれば読めるようになるということがわかってきている.適切な訓練を集中的に行えば,読み書きに必要な39野と40野が活性化され,読み書きできるようになるというのだ.

現在・読字障害の人は映像をイメージする能力が高い(ピカソも)

読字障害を持つ人で芸術や建築などの分野で活躍している人は少なくない.ハーバード大学,読字障害研究教育センター,ゴーマン・シャーマン所長は読み書きが苦手でも映像をイメージする能力に長けた子供達をこれまでにたくさん見てきた.物体を立体的に把握する能力が,読字障害でない人より明らかに秀でているということを発見した. なぜ立体的に把握する能力が高いのだろうか.それは視覚的,空間的に把握する能力を担うとされている右脳が活性しているからである.読字障害でない人は左脳を使って読み書きを行なっているが,読字障害の人は右脳を用いている.

先に述べた読字障害者の例

ジャック・ホーナー教授(恐竜研究の第一人者としてアメリカ・モンタナ州立大学・恐竜博物館(世界最大の恐竜博物館にて研究を行う)

視覚的にイメージする力が強いため,大量の恐竜の化石を発見できたのだと考えている.地層を見れば太古の状態が映像として思い浮かぶという.あらゆる岩や石から多くの情報を読み取ることができる.7000万年前のモンタナを想像できる.トリケラトプスなどの草食動物が水を求めて生息していた.彼の膨大な成果の背景には,こうした視覚的に想像する能力の高さがあったからだと考えられる.

東堂さん(イギリスの建築の大学を卒業し建築デザインの仕事に従事)

目の前に建築物(立体物)をイメージして,それを回転させたり視点を変えたりすることができる.今年よりフランスを代表する建築デザイン事務所に就職する.彼を支えているのはロンドン留学時代に恩師から言われた「お前は面白いものを持っている.でも頭の中にあるだけではだめだ.とにかく手を動かせ.」という言葉という.これがあるから自身を信じてやれているのだと.

昔・文字が誕生する前の読字障害の人は

10000年前の世界では他の人と全く同じだっただろう.配偶者を探すにも獲物を探すにも問題がない.もしかすると当時の世界において読字障害の人は集団の指導者だったかもしれない.なぜならば,3次元の世界を理解するのに長けているからだ.